湊かなえ『告白』の主題は2009年05月24日 21時04分21秒

湊かなえ『告白』
湊かなえ氏の話題作、『告白』を読みました。なるほど、よく書けていて、一気に読ませるところはなかなかの筆達者だと思われます。心理描写もかなりよく、構成と展開というか、配置と順序も悪くないと感じましたが、題材や人物像に少々、難を覚えたのは私だけでしょうか。確かにあり得る、とは思いましたが。個人的に、一貫して下支えしている形になっている森口悠子先生に自分を重ねてしまいました。ただ、同じ化学専攻といった面では追求不足(彼女の)を感じますし対応においても同様でした。

2月13日のブログの記事にあるように、この本も同じ主題、つまり、内容においての主張ではなく、この題名の「告白」をさせる形での四者四様の視点と立場と何よりその心の内の吐露が浮かび上がらせるところの異なる姿と様相の対立と対峙において意味するところをどれだけ伝えて成功したか、ということにあります。湊かなえ氏がどうしようとしたのかは不明ですが、この作品、『告白』、では並立ではなくあくまで悠子先生の心情と心理を基礎にしたという点で他の作品や試みとは違って見えます。

嚆矢は、イギリスの作家、アンソニー・バークリーの『毒入りチョコレート事件』です。この道具立てをそっくり使って違う形で実現させたのが、貫井徳郎の『プリズム』だったわけです。これも解決はつかず、またどれが中心的でもなく、両者はその点で似ています。ただ『プリズム』はかかわった者達そのものの立場で描かれていますからそれは異なります。これは、2月13日の記事に取り上げたように、津村記久子の『冷たい十字路』に引き継がれています。これらとは同じにならず、敢えて、避けるべき手法を使ったのが今度の『告白』だったわけです。内容においてそれは成功していますが、方法論からいえば好ましいとはいえないかもしれません。倒叙法形式での犯罪心理小説としてこれもひとつの実験ではあるわけで、広く読まれるにはむしろ読みやすい仕立てに仕上がっている、といえます。