よくできた女2011年06月14日 09時28分19秒

よくできた女
バーバラ・ピムという英国の作家をご存じでしょうか。この作家の著作を初めて読んだのはもう15年以上前になります。ペーパーバックで、邦訳のない、Academic Question、という題の小説でした。薄めでしたのでよく読めたのですが、その「語り口」の良さ、流れ、会話を楽しめたものです。邦訳としては、表題のともう一作、『秋の四重奏』(Quartet in Autumn)があります。訳は違うのですが、こんどのこの作品の方がより受け入れやすいと思います。

一人の未婚女性を通して描かれた宗教道徳もあった時代の良き風景がとても好ましく、それでいて人間の姿はそのようなものである(あるべきか)と思えて、肩を張ることなく楽しめる作品です。清潔さや清廉さを基調としていたと読み取れるそれはそれの英国のかつての社会の有り様を会話を中心として安心して読み進められるのです。どろどろとした風俗やいかがわしさ、人間の本性を衝くような激しさはない分、本来の社会の人間の形を教えてくれているようにも思えます。

こういった素性の良い、「できの良い」小説は最近少なくなってきて、国内の若い作家たちの小説はとても「安心して」読めません。わたしの知るところでは、赤川次郎の小説~ジャンルは全く異なりますが~に似た雰囲気があると感じさせられます。深く求めない、あからさまに描写していないところに奥ゆかしさのようなものを見て、今では他とは違う、でもとても秀逸な文章と静かな変動によって社会の側面を見せてくれた、ある意味、心安らぐ作品として、日本でもそのような小説がもっとでてくれないかなと期するところです。あ、そうそう、朝吹真理子さんの作品にはそんなところがありますが。

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